上映時間、3時間。
原作は吉田修一さんの同タイトル、上下巻。卒業生さんから解説して欲しいというリクエストをいただきました。小説を読まずの「一か月前に一回観た」という状況で、残っている印象と記憶をたよりに考察しました。映画をご覧になった方、小説を読んだ方、またご存知ない方でも、映画をより理解する参考資料の一つとして読んでいただけると幸いです。
Contents
本作はメンタル構造からみても完璧に筋が通っている
極道の家に生まれた「喜久雄(吉沢亮)」と、歌舞伎の御曹司「俊介(横浜流星)」。
吉沢亮(役者で書いた方が解りやすいのでこっちで書きます)は、戦うことや勝つことで生きる「極道の家」で育った息子です。
対する横浜流星くんは、恵まれた環境でぬくぬくと育った歌舞伎界の御曹司。厳しくも愛のある理想の父(渡辺謙)と、梨園を切り盛りする強い母(寺島しのぶ)。この二人の主人公の人生のスタート「幼少期の家庭環境」の違いが、後の人生にどのような影響を与えているのか。物事の考え方や行動の在り方など、フィクションでありながらまるで実話なのではないか?と感じるのは、こころの構造との整合性がある作品だからです。
家柄や血筋より、人生を決定しているのは13歳までの家庭環境
ワタシがカウンセリングをする中で、ちょっとウザいくらいしつこく受講生さんにお伝えすることがあるんです。それが「甘えと言い訳(クリエイティブアボイダンス)」を捨てて「腹を括る」という「覚悟」の重要性。
吉沢亮くんには、
・帰る家がない(親がいない)
・拾ってくれた渡辺謙に対する恩(任侠出身ですからね)
・芸に対する興味と、生まれ持った才能
↑15歳といえばまだ少年。後ろ盾となる家族の不在は、どれくらい心細く恐ろしいか。世間に放り出された彼の人生はまさに「背水の陣」ですが、このギリギリの崖っぷちがあったから、逆に拾われた歌舞伎の世界で甘えを捨て、逃げ出しもせず腹を括れやり通せたとも言える。だとしたら、良いとか悪いというジャッジの無意味さがよくわかります。
横浜流星くんには、
・血の持つ力、血統という絶対の保証がある。
↑家柄というと一見羨ましくなりますが、何事にも陰陽が同時発生していることをワタシ達は本当に忘れてはいけません。プラスとマイナスはワンセット。恵まれていることが甘えに繋がり、遊びを覚えていく。それが後々自分の健康をむしばんでいくことにもなる。誰でもお金持ちの家に生まれたいと思います。親の七光りで人生の滑り出しが順調な人を見ると、ヤッカミたくもなる。ですがこの作品は、そういう人にはそういう人の「落とし穴」がちゃんとあることを見せつけます。
真の成功者とは、魂の成長を遂げた者をさす
では吉沢亮くんが苦労の末に成功し、横浜流星くんはただただ転落していくのか?というと、そうではない。
亮くん、次第に「結果主義者」になっていく。勝つこと、抜きんでることが「目的化」していくのです。ここは重要ポイントで、彼はあろうことか「悪魔との契約」に手を出してしまうのです。これ、覚せい剤みたいなものですよ。ワタシは過去に一度、「悪魔と契約したことがある」という女性に会ってお話を聞いたことがあります。悪魔は絶対に一度契約した相手を見逃しません。そんなこともありまして、「ああ、作者は本当に目に見えない世界のことまで深く理解しているんだなぁ」と思いました。
御曹司が食らった父親の愛の鉄拳
さて、物語は展開していきます。御曹司流星くんは、芸に厳しい父(渡辺謙)から愛の鉄拳を食らう。重要な代役を息子ではなく、亮くんに!というあのシーン。母(寺島しのぶ)は息子を推してごねますが、渡辺謙は苦渋の決断を下すのです。脳天をカチ割られるようなショック、これこそ「しあわせは不幸の顔をしてやってくる」というアレなんですよ。父は息子を甘やかさなかった。父性とは、社会で生き抜く強さを身に着けさせる愛のこと。流星くんはどん底に落ちる訳ですが、捨てる神あれば拾う神あり。寄り添ってきたのが高畑充希(春江)でした。ホステスをしながら亮くんを故郷からずっと支えて来たのに、です。あれって「女の直感」なのか、本能で生きる女。スペックで男を比べている全女子たちは見習うべきだと思います。
成功と幸せを決める一生の基礎は、13歳までの親子関係
亮くんも同じく、華やかな舞台からどさまわりに転落するも、最終的には人間国宝として返り咲きます。でも彼のこころは晴れない。どんなに人の心を芸で明るく、あたたかくもしていても、「自分」のこころに穴がある。スタートとゴールは一対。人生攻略には順番が大切で「アルゴリズム」というのですが、彼はそれを踏み外してしまいました。
①自分
②パートナー
③こども
④それ以外(歌舞伎をみにくるお客様はココ)
承認欲求はワタシ達の本能と言われていますが、その前に大切なのが、自己能力の自己評価。これを「セルフエフィカシー」と言います。
亮くんには幼少期の問題から、自己肯定感に不具合がそのまま放置されていますので、少しずつ人生が狂い始めていくのです。
一見負けたように見えても、本当は成功者
流星くんは代役に選ばれなかった一件から、7年か8年か実家から姿を消してどさまわりを経験し、人間性と芸を成長させて元の世界に戻ってきました。そこにかけた年月の長さと、墜とし切った生活の落差。このあたりの生々しさがワタシに最も響いたシーンでした。人は簡単に成功できない。できなくてもいい。このプロセスにぶつかっていく勇気。流星くんは己の甘えに負けなかった。魂の目的を達成したよき人生に喝采!です。病になっても、こころの深い所は満たされている。彼のように自分と本気で向き合わないと、何度でも嫌なことが起こるようになっている。自分も経験上思いますし、周囲を見ても感じます。
人生のスタートと向き合ってから、正当な努力をしましょう
歌舞伎という芸術に没頭した亮くんの人生がなぜに切なく、孤立していったのか。血のにじむような努力を積み重ねて生きて来たのに、求めていた結果と違う。こういう人、多くいると思います。どこかで掛け違えている人生のボタン。その始まりが13歳までの育ちにあります。まずは自分と向き合うこと。カウンセリング、受けに来てください。亮くんがもしもそれをやっていれば、あたたかな別のパートナーに支えられて、しあわせな人間国宝になっていたかもしれませんし、芸の神様「弁財天」とご縁ができてきっと応援されたでしょう。